目 次
最古のクジラ類 ムカシクジラ
鯨河馬形類
作成:不思議なサイト管理人
2024年
ムカシクジラとは
ムカシクジラという言葉どおりで、昔のクジラ。現在では「原クジラ」や「古鯨類(こげいるい)」と呼ばれることが多い。
具体的にはクジラ類の進化系統樹の赤線、パキケトゥス科から、バシロサウルス科のドルドンまでをムカシクジラと呼び、現生のヒゲクジラ類やハクジラ類の祖先グループになる。
祖先グループという言葉は、現生クジラの共通祖先を含むグループになり、最後期に出現したドルドンには、現生クジラの直接の祖先、あるいは直接の祖先と近縁な可能性がある。
以下、当サイトではクジラ類の進化系統樹に沿って、パキケトゥスからドルドンまでを、鯨偶蹄目ムカシクジラ亜目に分類される昔のクジラとして書いてみたい。
ちなみに、クジラ類の進化系統樹の下部には、「鯨河馬形類(くじらかばけいるい)」と書いているが…。
クジラやラクダ(詳細は当サイト「ラクダの進化」)、カバ、イノシシなどが分類される鯨偶蹄目のなかでも、クジラとカバは同じ系統(単系統)、近縁になる。
Pakicetus パキケトゥス
⇓ パキケトゥス
File:Pakicetus BW.jpg
Author:Nobu Tamura
CC BY-SA 3.0 DEED
最古のクジラ
分類:パキケトゥス科パキケトゥス属
生息年代:約5300万年前 - 5000万年前
化石産出地:パキスタン北部、インド西部
生態:水陸両域
食性:肉食
全長:約2m
まるで、イヌ科動物のような姿をしているが、現在のところ、最古のクジラだとされているのが、画像のパキケトゥスになる。
「この画像のどこがクジラだ」と言いたくなるほど、陸生動物にしか見えないが、聴覚は現生クジラのような骨伝導が可能であり、地面に耳をつけて音を聞いていたと考えられている。
それに、目の位置も高い。現生のワニのように、水中に体を隠しながらも、陸上の獲物を見つけることが可能だったのであろう。陸上生活から、水辺での生活のはじまりだ。
パキケトゥス
化石が陸成層(陸地に堆積した地層)から発見されていることから、主に陸地での生活に適応していたと考えらているが…。
採食活動は水辺でおこない、甲殻類や小動物などを捕食していたと考えられている。ただ、水に潜っていられるのは90秒ぐらいだったとも推定されている。
Ambulocetus アンブロケトゥス
⇓ アンブロケトゥス
File:Ambulocetus new NT small.jpg
Author:Nobu Tamura
CC BY-SA 4.0 DEED
アンブロケトゥス
分類:アンブロケトゥス科アンブロケトゥス属
生息年代:約4780万年前 - 4130万年前
化石産出地:パキスタン北部、インド西部
生態:水陸両域
食性:肉食
全長:約3m
前述のパキケトゥスの進化形が、アンブロケトゥスになる。
まだまだ、クジラのような姿ではないが、大きな尾や、水かきをもっていたことから、アシカのような泳ぎ方ができたのではないかと考えられている。
時おり、水辺で捕食行動をする程度だったパキケトゥスに比べると、アンブロケトゥスは明らかな水生適応を見せている。
アンブロケトゥスの狩り
画像を見る限りでは、体毛のあるワニのようにも見える。
その印象どおりで、ワニのように目や鼻だけを水面上に出して、獲物が近づいてくるのを待つ、待ち伏せ型の狩りをしていたと考えられている。
ワニのような姿と、ワニのような待ち伏せ型の狩り。それらはワニのニッチ(生態的地位)であり、「アンブロケトゥスは、ワニのような水生哺乳類だった」といえよう。
Kutchicetus クッチケトゥス
⇓ クッチケトゥス
File:Kutchicetus BW.jpg
Author:Nobu Tamura
CC BY 3.0 DEED
クッチケトゥス
分類:レミングトノケトゥス科クッチケトゥス属
生息年代:約4600万年前
化石産出地:パキスタン、インド西部
生態:水陸両域
食性:肉食
全長:約1.5m
前述のアンブロケトゥスの進化形がクッチケトゥスになるが、全長約3mから約1.5mへと、半分ほどの大きさになっている。
クッチケトゥス(レミングトノケトゥス科)は、後に出現するロドケトゥスやドルドンなどとは枝分かれした特殊な分類、クジラの進化の傍系(ぼうけい)になる。
だが、水生適応は更に進んでおり、水陸両域に生息していたとはいうものの、より多くの時間を水中ですごしたと考えられている。
Basilosaurus バシロサウルス
⇓ バシロサウルス
File:Basilosaurus cropped.png
Author:Dmitry Bogdanov
CC BY-SA 3.0 DEED
バシロサウルス
分類:バシロサウルス科バシロサウルス亜科バシロサウルス属
生息年代:約4100万年前 - 3500万年前
化石産出地:米国、英国、エジプト、パキスタン
生態:海洋
食性:肉食
全長:約15 - 20m
バシロサウルス…。サウルスと聞けば、恐竜ティラノサウルスが浮かぶ人は多いと思う。あるいは、魚竜(海生爬虫類)のイクチオサウルスだろうか。
1832年に化石を発見した古生物学者でさえ、イクチオサウルスのような爬虫類だと思い、バシロサウルスと命名している。
その後、ムカシクジラの一種だとわかり、ゼウグロドンと命名されたが、先取権の原則(先に発表された学名が有効)から変更されることはなく、現在もバシロサウルスが正式名称になっている。
水陸両域だったムカシクジラの生態は、バシロサウルスによって、ついに完全な水生へと進化した。
だが、現生クジラ類のような遠泳力や潜水能力はなく、主に浅海に生息しながら、小型のムカシクジラや、大型の魚類などを捕食していたようだ。
UMA(未確認生物)として
改めて、バシロサウルスの画像を見ると、現生のマッコウクジラと同等以上の全長ではあるが、重量感のある横幅ではない。まるで、巨大なウミヘビのようだ。
その印象から、海洋で目撃されるUMAシーサーペントの正体を、バシロサウルスの生き残りだとする見解もあるが…。
»参考:当サイト「シーサーペント」
3400万年前以降、バシロサウルスの化石が発見されていないことは、いかんともし難い。
Dorudon ドルドン
⇓ ドルドン
File:Dorudon cropped.png
Author:Nobu Tamura
CC BY-SA 3.0 DEED
ドルドン
分類:バシロサウルス科ドルドン亜科ドルドン属
生息年代:約4100万年前 - 3500万年前
化石産出地:米国、エジプト
生態:海洋
食性:肉食
全長:約4.5 - 5m
前述の、バシロサウルスと同時期の海洋に出現したのがドルドン。分類も同じバシロサウルス科で、バシロサウルスとは近縁になる。
バシロサウルスもドルドンも、現生のクジラ類と近縁な系統ではあるが、効率のいい尾ビレの使い方などから、より近いのはドルドンだとされる。
ドルドンは現生クジラの直接の祖先、あるいは直接の祖先と近縁であると考えられている。
集団化したドルドン
バシロサウルスの化石からは、小型のムカシクジラ類を捕食していたことが知られている。
逆に、ドルドンの幼体の化石からは、バシロサウルスの歯型だと思われる痕跡が残されていた。恐らく、バシロサウルスはドルドンを捕食していたのであろう。
ドルドンの化石は、限られた範囲から多数発掘されることもあり、集団化していたことが推測される。
恐らくは、バシロサウルスのような外敵から身を守るため。そして、効率のいい捕食行動のためにも、集団化することは都合がよかったのだろう。
動画 クジラの進化
参考書籍 · 参考サイト
知は地球を救う 7.地球・生命の誕生とその後の変容-帝京大学(PDF)特集:エジプト クジラが眠る谷 2010年8月号 ナショナルジオグラフィック NATIONAL GEOGRAPHIC.JP
やはり「クジラ」を食べていた「シャチ」の祖先(石田雅彦) - エキスパート - Yahoo!ニュース
クジラ類の進化史 - Wikipedia